ある碩学の死去。

remond

フランス政治学界の重鎮中の重鎮、ルネ・レモンが4月13日に逝った(享年88歳)。フランス革命史家のフランソワ・フュレの後を継いで、アカデミー・フランセーズ入りし、「不滅の人(immortels)」(終身会員であることからそう呼称される)の碩学も、長い闘病生活には勝てなかった。数年前になるが、彼が総裁を務めるシアンスポをたまたま訪れた際に、「不滅の人」だけが着ることを許されるグリーンのコスチュームに身を包み、職員に対してかくしゃくとして新年の挨拶を行っていた。機会があれば日本に招待しよう、と何度も周囲と話していただけに、無念である。最近でも次々と著作を発表していただけに、死を迎える状態にあるとは想像だにしていなかった。
シラク大統領は、「彼とともにフランスの根幹的な思想が消え去り、大きな悲しみを覚える」とコミュニケで追悼した。

とはいえ、20世紀の仏政治史を専門としてきたレモンがどのような学者だったのか、と問われれば答えるのは簡単ではない。おそらく、最大の貢献は、その代表作でもある「フランスの右翼」において、ナポレオン的伝統、王党派的伝統、ファシズム的伝統の三つの系統が存在することを、丹念に説いたという点になるだろう。彼のこの指摘はその後レファレンスとなった。しかし、それが果たして「独創的」で「革新的」な研究だったのかといえば、決してそうではないだろう。

むしろレモンが学識としての尊敬を一手に引き受けていたのは、そのシンプルでエレガント、明晰ではあってもポイントを押さえた「記述」(明晰さ、エレガントさ、簡素であること、これが仏学術界の美徳である)、さらに決して奇抜さでは勝負しない「良識=ボン・サンス」の持ち主だったからである。

日本で翻訳された数少ない本である「政治はかつてあったものではなくなった(邦訳フランス政治の変容)」(ユニテ出版)の最後の文章にはこうある。

「未来を予言することは常に軽率だが、政治に関してはなおさらそうである。偶然性を免れえず、出来事に左右されるのが政治に内在する特徴なのだから。従って政治がどのような形態をまとうのか、前もって描くことは不可能である。しかしフランスの政治的な特異性が徐々に消滅することを確実に余儀なくするものではない、と断言することは依然として当たっている。以上、全てからして、フランス国民に固有の特質はなおも政治的なるものとの関連性の独自の持ち方を作っていくだろう、と考えることが許されるのである。」

大統領選の第一回投票を迎えて、早速サルコジは「彼との親密な関係を得たことに感謝したい」とコメントし、もちろんロワイヤルも「偉大な知識人、歴史家、政治分析家の模範」と誉めそやした。「かつてあったものではなくなった」という意味では、今回の大統領選ほど、これに当てはまるものはないかもしれない。レモンのコメントを読めなくなるのは寂しい。それでも、彼が書き遺した言葉を大事にしていきたいと思う。