「ソーシャル・ディスタンス」の歴史的由来。

 コロナ禍とともに、「ソーシャル・ディスタンス」という言葉が日常生活にすっかり定着するようになった。「社会的距離」とも訳されるが、なぜ感染を防ぐための物理的距離が「社会的」と呼ばれるのか、長年不思議に思ってきた。リモート・ワークにせよ、時差通勤にせよ、人々との距離を保つ行動は、むしろ社会が社会であるために条件である集団的な経験を奪い取ってしまうのではないか、と。

 

 その疑問は、シカゴ大学院生の論文を最近読んで氷解した。リリー・シェリルス「社会的距離の社会史」によると、この言葉はナポレオン時代のフランスで、皇帝の寵愛を失ったことを嘆く側近が最初に使ったことに起源を持つという。それが、現代的な意味で使われるようになったのは世界で数千万人の死者を出した1918年のスペイン風邪流行の時のことであり、2004年にSARSが流行った際に米CDCが報告書で使用したことで定着したという。

(原文はこちら)

cabinetmagazine.org

 

 同時に「社会的距離」という言葉は、特定人種を遠ざけるための言葉として20世紀前半のアメリカとイギリスで用いられていたらしい。これと関連して、この言葉は社会学調査にも流用されることになり、特定の人種集団が他の人種集団とどのように「距離」を取るのかを意味するものとして、学術用語としても用いられるようにもなったという(『ボガーダスの社会的距離スケール』)。こうした好ましからざる集団に対する距離という意味合いは、動物集団同士が互いに距離をとっていることの研究などを経由して、1990年代にエイズ患者の社会的疎外の文脈においても応用されることになったそうだ。

 

 事実、1910年代後半はスペイン風邪が世界で猛威を振るうと同時に、アメリカで人種問題がかつてないほど、激化した時代でもあった。第1次世界大戦後の動員解除と労働力不足から、南部から北部の工業地帯に黒人が移住するようになり、これに脅威を覚えた白人層が暴行を加える事件が続発、これに抗議する黒人たちが団結、80人近くが裁判にかけられたという。大統領だったウッドロー・ウィルソン大統領を含め、当時の政府やマスコミは、共産主義と暴動を結び付け、白人層の恐怖心を煽った。

 

 1919年に起きた黒人リンチと人種暴動は「赤い夏(レッド・サマー)」として記憶されているが、人種間の「社会的距離」をめぐる問題は、現在のコロナ感染拡大とともに広がり、60年代の公民権運動以上の参加者を得た「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」運動とそのまま重なる。ある調査では、アメリカの白人と黒人関係が悪化しているとする国民は過去20年で最も高い割合を示している。1世紀以上が経っても、依然としてアメリカ社会は「社会的距離」をめぐって煩悶しているのだ。

 

 だから「社会的距離」の取り方は、社会の姿そのものを反映しているのかもしれない。その証拠にコロナ対策においても、アメリカやフランス、日本のように対人不信の高い国ではマスク着用が半強制的である一方、スウェーデンのような高度信頼社会では、死者数の多さにも係らず、街中でのマスク着用は義務化されていない。そうしたことが許されるのも、科学的根拠に基づく以上に、相手が自分を感染させないこと、自分は相手を感染させないことに対する信頼が成り立っているからではないか。

 

 そのような歴史と現状を知る時、やはり「社会的距離」は、社会を空中分解させてしまうものであるように思える。もちろん、距離をとる行為は、自分自身の心身の健康を守るためでもあろう。それでも、その行為そのものが他人への偏見や予断を助長してしまう可能性がないわけではない。「社会的距離」を嫌が応でも要求するコロナ禍は、社会における個人と個人との間の距離がいかにあるべきなのか、反省するための良い教訓となっている。

(『北海道自治研究』321号より改編して転載)

『アフター・リベラル』解題

9月16日に、講談社現代新書より『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』を上梓しました。

タイトルを見ただけでは、内容が分かりにくいかもしれません。

その触り(序章)は、こちらで読むことができます。

さらに、本のメッセージとそこに込めた意図はこちらで公開しています。

 

その上で、『アフター・リベラル』の内容がそれぞれどのようにつながっているのか、内容紹介とともに、説明をしてみたいと思います。

 

第1章「リベラル・デモクラシーの退却――戦後政治の変容」

この章では、戦後(西側)先進国の政治経済社会を規定していた、いわゆる「リベラル・デモクラシー」と呼ばれる政治体制の現在地を、ハンガリーやトルコに代表される「競争的権威主義体制」との比較で確認しています。ここでは、リベラル・デモクラシーが極めて歴史的偶然から生まれたものであることが強調されています。

 

第2章「権威主義政治はなぜ生まれたのか――リベラリズムの隘路」

この章では、リベラル・デモクラシーの揺らぎがなぜ生じているのか、とりわけ冷戦以降の保革対立軸の変容から説明しています。冷戦が終わってから、社民政党の経済リベラル化が進み、これに対する保守主義政党は政治リベラル化していったことが、没落する中間層、それらが支持するポピュリズム政治の台頭につながったことが指摘されています。

 

第3章「歴史はなぜ人びとを分断するのか――記憶と忘却」

この章では、より具体的な争点に話を絞り、日本のみならず世界各国を巻き込んでいる、いわゆる歴史認識問題を取り上げています。その上で、歴史が主観的(社会構成主義的)に想像されるようになったことで、その強度がますます高まっていること、さらにその処方箋として、カズオ・イシグロの作品を引きながら「歴史の忘却」もまた必要であることを説いています。

 

第4章「『ウーバー化』するテロリズム――移民問題ヘイトクライム

この章では、やはり争点としてテロとヘイトクライムを取り上げ、宗教系テロはイスラムを問題とするのではなく、現代社会で進んだ個人化(「ウーバー化」)を原因にしていること、さらにそうした「まなざし」によるテロ行為がヘイトクライムを呼び込むロジックを説明しています。処方箋としては、ウエルベックの小説を参照しながら、個人の自由を約束する宗教的なものの行方を占います。

 

第5章「アイデンティティ政治の機嫌とその隘路」

この章は、それまでの理論と現象を、歴史的に解題するものとなります。具体的には、第2章でみたリベラリズムの全面化と、第3章と第4章でみた争点の源流が1960-70年代にあることを確認して、その過程で生まれた「丸裸の個人」がネオ・リベラリズムとも癒着し、さらに「政治的引きこもり」と「アイデンティティ政治」の両極を生んで、それが社会の分断線と和解不可能性へとつながっていることを指摘しています。

 

終章「何がいけないのか?」

終章では、これまでに展開した各論が「政治リベラリズム」(第1章)「経済リベラリズム」(第2章)「個人主義リベラリズム」(第5章)「社会リベラリズム」(第2章)寛容リベラリズム」(第4章、第5章)というリベラリズムの思想的・歴史的潮流といかに接合しているのかを説明しています。その上で、均衡ある新たな時代のリベラリズムがいかに構想できるのかのヒントを提供しています。

 

「アフター」や「ポスト」といった言葉は、それが何であるのかは明瞭に認識できないものの、何か新しいものが生まれている、という感覚を表す接頭語です。『アフター・リベラル』も、これまでのリベラリズムの在り方を自己反省するとともに、それをアドルノ流に「うけなおす」必要性を主張するものです。

 

本では直接的には議論していませんが、日本では目下、上でいった「経済リベラリズム」と「寛容リベラリズム」が不均等までに先行している状況にあるように思います。これにその他のリベラリズムが追い付かなければ、これも現状にみられるように、バックラッシュと批判・反批判を招いて、社会に取返しのつかない分断・和解不可能性をもたらすことになるのではないか、と危惧しています。

 

そんなアジェンダについては、下記のイヴェントで議論したいと思っています。相手頂くのは、『リベラルの敵はリベラルにあり』が好評の弁護士の倉持麟太郎さんです。

 何れにしても「リベラリズム」という、それ自体が多用な思想的背景を持つ概念を正確に理解し、どのような偶然と必然によって生まれたのかを知らない限り、次世代の政治的対立軸がどのようなものになるのかを占うことはできません。ただそのことを知れば「アフター・リベラル」の後にも、やはり姿を変えた「リベラル」が来ることがわかると思います。その一助となる本になれば、と願っています。

【転載】リベラリズムの歴史的な綻び

  多くの先進国で、いわゆるポピュリズム政治が常態となりつつある。国よって差はあるが、右派ポピュリスト政党が新たに獲得している主な支持者は労働者層である。「ラストベルト」という言葉に象徴されたように、1970年代以降の製造業の衰退は、左派の金城湯池だった旧鉄鋼・炭鉱地域が、米トランプ支持へと流れる原因を作った。フランスの国民戦線(現在は国民連合へと改称)、スウェーデン民主党オーストリア自由党など、西欧極右の最大の支持者階層は、労働者層だ。イギリスの労働党、ドイツの社民党からの労働者層の離反とポピュリスト政党への支持増も綺麗に相関している。


 ドイツの思想家ベンヤミンは「ファシズム台頭の裏には必ず革命の失敗がある」と言ったが、つまりポピュリズム政治の成功は社民の凋落と表裏一体の関係にあるのだ。労働者層が左派政党に投票する割合を示す「アルフォード指数」は、1960年代以降、西欧では一貫して下落している。英エコノミスト誌の試算では1970年から2015年までの間、西欧社民は1980年代前半および90年代後半から2000年代前半にかけて得票を伸ばしたが、その後、2割以上も減らしている。周知のように、ここ数年の国政選挙では、オランダ、フランス、ドイツの社民政党は戦後最低の議席数へと衰萎した。労働者層と社民政党の紐帯は解け、ポピュリズムが結びなおそうとしている。

 では、欧米の労働者はなぜ右派ポピュリズムへと傾斜するのか。1950年代末、政治学者リプセットは、日本を含む各国の労働者層は経済的にリベラル(再配分と保護主義支持)である一方、社会的価値観においては権威主義的・非寛容であることを意識調査でもって証明し、これを「労働者層の権威主義」と名付けた。とりわけ単純労働者層は、十分な教育を受けておらず、不安定な地位に追いやられることから、「長いものに巻かれろ」と、権威に従う傾向を持つという。こうした観点に立てば、「反グローバリズム」と「文化的権威主義」を掲げるポピュリズム政治に労働者が靡くのは故なしのことではない。

 それでも戦後期に先進国の民主主義はなぜ安定と成熟をみせたのか。リプセットは経済的な平等を求める階級闘争が、結社の自由や基本的人権といったリベラルな価値と結びついていたからだという。そして戦前の反省に立った戦後の「階級均衡デモクラシー」(網谷龍介)は、こうした民主的価値を積極的に制度化していった。言い換えれば、社民政党労働組合が、放っておけば互いに反発するかもしれない労働者と民主的価値をつなぎとめる役割を果たしていたのだ。

 こうして20世紀後半、歴史上はじめて完成した労働者階級とリベラルな価値の邂逅は、後者が前者を守ることができなかった時点で崩壊する運命を迎えることになった。それは、冷戦が終わった90年代、欧米の社民勢力が政治的にリベラルな価値を守りながらも、経済リベラルであることを止め、国際競争と市場開放を選択したことの不幸な結果でもあった。ここにポピュリスト政党が漬け込む余地が生まれたのだ。

 日本でも、製造業や公的部門の雇用者数は、欧米と比べれば弱いペースではあるが、中期的には減少しつつある。ポピュリズム政治の伸張が投げかけているのは、産業構造や労働様式の大きな変容の中で、戦後民主主義の発展と安定をもたらした経済リベラルと政治リベラルの関係をいかに再構築できるのかという、歴史的な問いでもある。例えば、複数の意識調査が明らかにしているように、日本の若年層の政治意識はかつてと大きく異なり、より権威主義的、保守的になっている。この事実は日本政治も大きな地殻変動を被る可能性を示唆しているのかもしれない。

 不肖、この度北海道地方自治研究所の理事を拝命した。綻びをみせはじめた関係を新たに築く方途として何があり得るのか、微力ながらも知恵を絞りたい。

 

(『北海道自治研究』2018年6月号より転載)

フィリップ新内閣について。

先に時事通信の会員サイト「Janet」で「【対談】遠藤乾氏・吉田徹氏 マクロン外交は国際協調主義ーー大統領選で生じた亀裂を修復できるか」を掲載したところですが、5月17日のエドゥアール・フィリップ内閣の発足にあわせて追加インタビューがありました。フランスでは、大統領が当選した後に、議会選を待つ前に首相を任命、組閣が行われるのが通例となっています。以下に時事通信の許可を得て、当該部分のみを転載します。

マクロン⼤統領による初の組閣が⾏われた直後の5⽉18⽇、吉⽥⽒が改めて電話インタビューに応じ、新内閣の特徴などを語った。内容は以下の通り)


─フィリップ内閣の特徴は何でしょうか。

吉⽥⽒ 新閣僚では、担当⼤⾂も含めれば、⾸相以外で右派から2⼈、左派から4⼈、中道から3⼈、さらに政治家以外から⽂化⼤⾂や⾼等教育相、エコロジー相など8⼈が登⽤されました。これは、選挙戦中からマクロン⽒が公⾔していた、特定の党派や政党に依拠しない政治を⾏っていくという⽅針が⼈事においても貫徹されたといえるでしょう。

これは、満遍なく、さまざまな政治勢⼒からの閣僚を迎え⼊れなければならないということでもあります。政策領域に精通している⼤⾂を任命していることも特徴です。そうした点ではよく練られた適材適所の⼈事だと思います。内閣の⼈数はもっとも少ないと想定されていましが、実務型で機動性も⾼くみえます。さらに男⼥同数であることも特筆されます。


─6⽉の総選挙までの暫定内閣なのでしょうか。
吉⽥⽒ フィリップ内閣が続投できるかどうかは下院選の結果次第です。共和党が議会多数派となる可能性も低くはありませんが、その場合、同党出⾝でジュペ元⾸相の信頼も厚いフィリップ⾸相の内閣に不信任案を突き付けるのは難しいと考えられます。それ⾃体が共和党の分裂につながりかねません。もしマクロン⼤統領⾃⾝の「共和国前進」が多数派を形成できなかった場合も、その保険として共和党から⾸相を迎えたという⾯もあるでしょう。


ルメール⽒を経済相に充て、共和党に経済の責任を取ってもらうという形でしょうか。
吉⽥⽒ マクロン⼤統領の規制改⾰寄りの姿勢が⽰された形です。オランド⼤統領のもとバルス政権は、マクロン⽒⾃⾝が経済相時代、率先して法案を通した経済政策でもって、政権と党内が⼤きく分断されました。そう考えると、マクロン⼤統領の経済政策を実現するには、社会党よりも共和党の政治家に任せた⽅が適任です。さらに議会多数派の協⼒も得やすいという考慮もあってルメール⽒を経済相に任命したとみています。

 

─ルドリアン⽒が外交と欧州を担当することになりました。

吉⽥⽒ ルドリアン⽒はオランド⼤統領が⼤統領候補だった時代から、彼の国防政策のブレーンでした。そこは継続性を重視したということでしょう。また、社会党にあってかなり早くからマクロン⽒⽀持を表明していたので、その論功⾏賞的な意味合いもあるかと思います。そうした意味で外交政策はオランド時代のものと⼤きく逸脱することはないとみます。ただ象徴的なのはルドリアン⽒の管轄が「欧州および外務」となっていることです。欧州が先に来ているのはヨーロッパ重視姿勢の表れです。


─環境活動家のニコラ・ユロ⽒の環境相就任は。
吉⽥⽒ シラクサルコジ、オランドのいずれの⼤統領の下でも、その内閣⼊りがささやかれてきたユロ⽒ですが、マクロン⼤統領なら内閣に⼊ってもいいということなのかもしれません。⼤統領選では、マクロン⽒が環境政策をあまり訴えてこなかったことに緑の党は不満を持っており、彼⾃⾝、エコロジー問題に関⼼を⽰していないと⾒られていたこともあって、そのイメージ払拭(ふっしょく)を狙って環境活動家として知名度の⾼いユロ⽒を⺠間⼈枠の中で⼊閣を要請した可能性もあるでしょう。


─当⾯の課題は。
吉⽥⽒ マクロン⼤統領は下院選が終わっても、閣僚のバカンスを認めず、新たな労働法を政令でもって制定すると約束しています。労組は既に反発しており、秋⼝からストやデモが相次ぐ可能性もあります。ただ、マクロン⽒が労働者や労組の反対を押し切って強⾏突破するとは考えにくい。時間をかけて合意点を探っていくことになりますが、それが世論からどう評価されるか、現時点では未知数です。今のところ、国⺠戦線のマリーヌ・ルペン⽒も選挙を前に沈黙を守ったままです。どういう争点が総選挙で展開されるかも、その後の⼤統領の⽀持率にかかわってくるはずです。

(以上)

2017年フランス大統領選について(記者会見)。

4月26日に日本記者クラブで「フランス大統領選」についての会見を開いてもらう機会がありました。

www.jnpc.or.jp

 

ポイントは、1.従来の保革対立が成り立たない「歴史的選挙」であることの意味、2.しかし、それゆえに誰が大統領となろうとも統治に困難を抱え、「歴史的選挙」を成り立たせた問題を解決することはできないだろう、というものです。

 

内容は同ウェッブサイトで動画が公開される予定ですが、当日配布した会見レジュメも以下に掲載します(著作権上、一部改変あり)。

 

(ここから)

 

2017年フランス大統領選「不可能な可能(possible impossible)」はあるか?

吉田 徹(北海道大学法学研究科/フランス国立社会科学高等研究院日仏財団)

 

1.大きなステイク

〇 欧州選挙イヤーと「権力空白」の回避

〇「グローバルポピュリズム・ドミノ」の打ち止め?

〇 欧州統合の再起動の前提条件

 

2.アノマリーな選挙(添付資料1参照)

【表1】第1回投票結果(開票率97%、投票率77.3%〔推定〕)

エマニュエル・マクロン

23.86

マリーヌ・ルペン

21.43

フランソワ・フィヨン

19.94

ジャン=リュック・メランション

19.62

ブノワ・アモン

6.35

ニコラ・デュポン=エニャン

4.73

ジャン・ラサル

1.21

フィリップ・プトゥ

1.1

フランソワ・アスリノー

0.92

ナタリ・アルトー

0.65

ジャック・シュミナド

0.18

〇FN候補の過去最高得票率(770万票)

〇二大政党候補者が決選投票に進まない「歴史的選挙」

現職の不出馬

ゴーリスト党共和派(LR)の公開予備選

下馬評を覆す候補者の選出(LRフィヨン、PSアモン)

保革二大政党候補者(既成政党)の凋落

➣大統領2名、首相3名が競争から脱落

➣「少し右、少し左」のマクロン vs.「右でも左でもない」ルペン

〇D7の段階で投票先未決者が25-30%

〇極右ルペンの決選投票進出の確実視

➣ルペンを落とすための実質的な1回投票制へと変質

 

【表1】投票先の推移

 

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【表2】候補者の<強度>(投票先が確実と答えた有権者の割合)

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【表3】シナリオの確定と見通し

〔英エコノミスト誌〕

 

3.マクロンで決まりは本当か/動員と動員解除の綱引き/ガラスの天井は打ち破れるか

〇支持構造が強固なルペンvs. 本来の支持者ではない有権者を集めなければならないマクロン+低い投票率(cf.2002年)=ルペンの相対的な有利(S.Galamの計算式)

cf.44%が「止む無く選んだ候補者」と回答

マクロン:支持43%、止む無く57%  ルペン:支持57%、止む無く43%

〇「二回投票」の制度的特性

➣民意の多元性は逆機能する?

〇極右vs.保革の構図の再現、それゆえのFNの存在理由が更新される皮肉

 

4.FNの「トランスフォーメーション」(添付資料2参照)

〇創生期(1969―73年)、停滞期(1973―83年)、発展期(1983― 90年)、定着期(1990― 99年)、拡張期(1999年以降)

➣90年代から進展してきた「3分割化(tripartisation)」の帰結

〇ニッチ市場開拓能力高い政党:

創世記:反共主義者、戦中派

停滞期:+権威主義、自営業者

発展期~定着期:+労働者

拡張期:+若者、女性

経済左派と文化保守の組み合わせ

〇構造的要因:産業構造の変化(e.g.80-07製造業雇用36%減)、階層没落の恐怖、既成政党のヘゲモニー喪失

〇直接的要因:イスラム原理主義脅威、難民危機、ポスト・リーマンショック期の緊縮

➣21世紀のキャッチオール政党(M.Gauchet)なのか?

➣ルペン:フィヨンの文化保守、メランションの反市場主義、マクロンの目新しさで頭打ち

 

5.主たる選挙公約(――は特徴的と思われるもの)

マリーヌ・ルペン:文化的権威主義+経済的保護主義

スローガン「5年でフランスを立て直す、それが私の公約」

自由貿易協定の廃止EU条約再交渉域内派遣労働禁止、原産地規則の徹底、国内公企業の優先ユーロ脱退EU離脱国民投票原理主義的モスクの閉鎖、イスラム原理主義者の国政剥奪と国外追放、諜報機関の強化、無期懲役の実質化、刑務所収容能力拡大、治安能力の強化、警察要員の増大、警官への軍人地位付与、未成年犯罪者家庭への社会福祉停止、軍事費支出GDP2%引上げ、NATO軍事機構離脱、軍事要員増大、NPO設立支援、「ナショナルロマン」の普及、国有財産の転売禁止、男女賃金格差是正、医療空白地帯解消、病院人員強化、医療保険対象拡大、カルト団体支援禁止、政教分離原則徹底生地主義の廃止シェンゲン離脱合法的移民の上限化国境の復活家族呼び寄せ制限、育休の拡大、家族係数の上限緩和、大学入学の競争下、職業教育の強化、兵役の漸進的復活、制服の導入、フランス語教育の強化シェールガス禁止、原発産業強化、再エネ発展、エネ料金引下げ、労組の統合、中小企業負担慶全、大企業の通販禁止、R&D強化、企業投資基金創設、公共調達でのフランス企業の優先、ニューエコノミー担当省の創設、週35時間労働維持、ソブリンファンド創設、低所得者支援、60歳定年制、定住20年以上の老齢年金引上げ、残業の税控除、外国人被雇用者の課税、CAP基準の改編、高速道路管理の国有化、ネット自由の保証、公営住宅のフランス人優先、公務員の待遇改善、中小企業の税優遇、住民税引下げ、脱税対策強化、源泉所得税の廃止、低所得税の引下げ、VAT引上げ拒否、EU移民政策拠出拒否、中銀の政府ファイナンス解禁

 

エマニュエル・マクロン:文化的リベラル+経済的リベラル

スローガン「新しいフランスを作るために我々の開拓の精神を再発見する」

アンチダンピング対策強化、EU協定における税・社会基準の設定、EU社会政策の調和、戦略産業における外資規制、カナダとのFTA維持、貿易協定の運用監視、中国との協定推進、市民会議によるEU新プロジェクトEU財政と経済相設置、域内派遣労働の見直し、大IT企業徴税強化、2022年までに財政黒字化、EUでの諜報情報共有、イスラム原理主義者の禁固、医療保険国庫負担の見直し、公務員数削減、租税負担の低下、法人税所得税引下げ、労働時間再編成、失業保険手当見直し、刑務所収容能力拡大、治安要員の増加、減刑の禁止、生体認証によるID、監視カメラ増強、刑罰訴訟の時限化、EU司法協力強化、第1審判の各県附置、軽犯罪罰則の厳格運営、NPO設立支援、図書館開館時間拡大、欧州版NETFLLIX創設、定年年齢の柔軟化、厚生年金制度再編成、初等教育の自由化・強化、中等教育までの携帯電話持参禁止、大学自治・機能強化、文部科学予算の圧縮禁止、職業教育の拡充・強化、短期兵役の導入、県の部廃止、若者向け文化クーポン配布、政治活動規制、先端技術への投資、国連安保理常任理事国の拡大、ODAGDP0.7%引上げ公職への男女同数登用、パリテの実質化、産休の平等、海外県への投資強化、オリンピック・ゲイゲームス招致、高齢者介護従事者の育成、遠隔医療の拡充、在宅介護の拡充、宗教についての知識普及、攻撃的カルトの廃止、イスラム団体の統合、政教分離担当官の設置、移民の統合政策拡充、経済的移民の定義明確化、難民認定却下対象者の本国移送、難民認定期間の短縮、帰化での仏語能力条件化、FRONTEX強化、身体障碍者支援の拡充、生殖補助医療の要件緩和、低排ガス車購入支援、欧州単一エネルギー市場創成、石炭火力発電所閉鎖、シェールガス発掘禁止、再生エネ支援、原発依存低下、短期汚染対策強化、デジタル情報バンク創設、100億ユーロの投資基金、労使協約の拡大、労組の統廃合、公共部門のデジタル化推進、老齢最低年金引上げ、失業保険の拡大と給付条件化、失業率7%引下げ、CAP改革、環境農業支援、就農支援、インフラ修繕、AI国家戦略、光ファイバー完備、欧州単一デジタル市場、公営住宅増設、所得税の個人化、金融資産一律課税、資産税の不動産限定、議員定数3/1削減、議員歳費課税、外国人の地方参政権の禁止、比例制の部分導入

 

6.「閉じた社会」vs「開かれた社会」/「ポピュリズムvs.リベラリズム」/「グローバル化の勝者」vsグローバル化の敗者」の対決

マクロン支持者

ルペン支持者

年齢

 

 

18-24

31

15

25-34

28

24

35-49

21

27

50-64

22

29

65+

24

16

職業

 

 

管理職・専門職

33

8

事務職

25

19

一般従業員

21

27

労働者

16

48

年金生活

25

18

2012年投票先

 

 

メロンション

9

5

オランド

48

7

バイルー

15

2

サルコジ

18

13

ルペン

2

81

〔ELABE 04/17調査〕

1996年リヨン・サミット「グローバル化の光と影」

2005年EU憲法条約国民投票での「周縁のフランス(France péripherique)」の発見

2017年「リベラル/グローバル/個人」vs.「権威/ナショナル/共同体」の対立軸

 

7.工業社会の政治構造からポスト工業社会の政治構造へ?

〇「2つのフランス」の入れ替わり?:「左派」vs.「右派」から「国家」(社会保障、年金、安全保障化)vs「グローバリズム」(個人、能力、ポータビリティ)の対立へ?

cf 社会党+ゴーリスト党総得票%(大統領選):43.8%(81年)、54.1(88年)、62.7(95年)、36.1(02年)、57.1(07年)、55.8(12年)、26.3(17年)

〇「フランスの未来はどちらかというと明るい」マクロン支持者71%

「フランスの未来はどちらかというと暗い」ルペン支持者72%      〔IFOP調査〕

cf「次世代の状況について」トランプ投票者「より悪い(63%)」vsクリントン投票者「より良い(59%)」

➣属性・所得・世代以上に「2つの世界」の格差であることの憂鬱

➣「非リベラルな民主主義と非民主的なリベラリズムの台頭」(Y.Mounk)

 

8.今後の展望―下院選挙(6/11-18日)の不確実性

〇2015年地方選の再現でFNは少数派に?

社会党は低迷、保守派の持ち直し?

〇「前進」(マクロン)は65候補者擁立/第2のジスカール=デスタンになる?

二回投票制の制度趣旨の無視は、統治を困難にする

➣「コアビタシオン(保革共存)」or フランス版「ハングパーラメント

➣首相が楯突いた時、大統領は無力になる(ドゴール)

➣何れにしても「2割民意」の政権運営を迫られる

➣イギリス、アメリカとの差異

〇<敢えての>ワーストシナリオを予想すると・・・

 

(以上)