ファシストの子は・・・

マックス・モズレー、68歳。国際自動車連盟FIA)の会長がスキャンダルに襲われた。
FIAといえば、F1を初め、WRCラリー、ツーリングカー選手権等々、世界のメジャー自動車レースの主催者団体だ。

事の発端は今年3月、英タブロイドの「Nwes of the World」が、独占スクープとしてモズレーが、ロンドンのフラットの地下室で、SMプレイをしている写真と映像を報道したことだ。先般、モズレーはこの映像の削除要求の裁判に敗訴、またぞろyou tubeで閲覧できるようになった。

赤の他人の性的趣味なんぞどうでもいいのだが、ニュースをみている中で、なんとこのマックス氏、かのオズワルド・モズレーの息子であること初めて知った。オズワルド・モズレーとはいえば、イギリスが生んだ(おそらく唯一の)ファシスト政党、イギリスファシスト連盟(BUF)の創設者である。マックスは、彼の二番目の妻の次男ということらしい。モズレーは、保守党から労働党へと移り、戦前にはマクドナルド労働党内閣に無所任大臣として入閣してもいる。右から左へ、最後にはファシズムへ、英政治史の中でも、実に戦間期らしい政治家の一人である。しかし、ベルリンで挙げた結婚式の立会人がヒトラーだった、というは戴けない。

そのモズリーの息子が、2500ポンドを払って「ナチス風の格好をした娼婦に、囚人服を着てムチで打たれる」というプレイを楽しんでいたのだから、面白くない話でないはずがない(ちなみに、ビデオでドイツ語を喋っているのは、相手がドイツ人だったから、という釈明が弁護士から出されているのだが、マックスはドイツ語が流暢であることは確かであっても、いまひとつ真偽のほどは確かではない。もちろんナチとSMは、『ソドムの市』を始めとしてカルチュラルに同義であるにせよ)。

ネットサーフィンをする限り、マックスはかなりのエリート教育を受けたようで、オクスフォード大学で物理学を修めた後、弁護士資格を取り、モーターレースに興じる一方で、自ら「連合運動」というファシズム活動をしていたというのだから、ヨーロッパの有閑貴族の権化みたいな存在である。

FIAの前会長だったバーニー・エクレストンは、放映権ビジネス、投資ファンド、広告収入をミックスさせて、F1(正確にはF1レース主催というべきだろうが)を20年近くをかけて一流のビジネスに仕立てあげた。その既得権益は、莫大である。マックスも、すでに90年代から3回に渡って会長に再任されており、その非民主的な組織運営は、メーカーから批判を浴びている。

ファシストの子供が、ビジネスの教育を受けて、モータースポーツを楽しみながら政治運動をやり、ついぞ巨大なビジネス団体のトップになってグローバルに儲けながら、ナチス風SMプレイで凋落する。何とも面白い組み合わせ、といって不謹慎なら、なんともヨーロッパ的な話で、久々にわくわくしたのである。機会があれば、ぜひマックスに会って話をしてみたい。いや、そのプレイに参加したいという話ではない(念のため)。

ときにFIAの本部は、仏海軍参謀本部と並んで、パリのコンコルド広場の5つ星ホテル、クリヨンに一階にある(だから、80年代に行われたF1コンストラクター協会との和解を「コンコルド協定」と呼ぶ)。これもまた、不思議な話である。