最終日、パリで。
エジンバラの素晴らしいバルモラル・ホテル
スコットランド議会
アジャックシオ、ジェノヴァ街
お気に入りのパレロワイヤルの公園のマロニエの木漏れ日を浴びながらコーヒーをすする。
隣には、50半ばとおぼしき女性と30過ぎのスキンヘッドの男性。女性は、その白髪が目立つ髪の毛をショートカットにし、黒でまとめた衣装に炎のようなオレンジ色の大降りのショールを首に巻いている。足元の金色のスニーカーが一際目を引く。品良く、健康的に日焼けした顔に、前向きに生きてきた皺が刻まれている。男性は後姿しかみえないが、ちょっとラフな格好。立ち振る舞いからしてゲイコミュニティーの人のようにみえる。
笑いながら、何か真剣な話をしているインティメイトな雰囲気。2人は、白ワインとコーヒーをそれぞれ一杯づつ飲んでいた。別れの時間なのだろう、2人は席から立ち上がり、再開した双生児にように硬く抱擁しあった。30秒間ほど。2人にとって、それは1時間なのか1秒なのか。
男性は、そのまま背中を向けたまま並木の下を歩いていく。立ったまま彼を見送る彼女。50メートルほど離れたところで、彼は、ゆっくりと、すごくゆっくりと、スローモーションのようにして、一度も振り向かないままに、右手を挙げて手を降った。彼女も、しゃんと立ったまま、彼の背中に向けて大きく、愛のこもったサインを送る。彼の姿が見えなくなるまで。そしてお勘定をして、また、足早に過ぎ去っていった。
そんな光景を目にできる街は、やはり愛さずにはいられない。
離れがたく、ボクはどこかの誰かに、小さく手を振ってみた。