「信頼でつながる社会」

 先に、北海道消費者協会の年次大会の基調講演を依頼され、そこで「信頼でつながる社会~小さな力を持ち寄って」というタイトルで90分ほどお話をさせていただきました。

 もともとは、札幌市西区で仲間とやっている「子ども食堂」についての報道を事務局の方がご覧になって、そうした観点から何か話を、ということでした。

 専門の政治学とどのように話をつなげようかと考えて、日本における再分配、働き方、社会における「信頼」の話と三大噺でつなげてみました。

 事務局の方が会報誌用にと要点をまとめてくれたので、以下に再掲します。

 

注目集める子ども食堂

私はこの4月から札幌市西区で「子ども食堂」を仲間と運営しています。この「子ども食堂」は食事を提供するだけではなく、子どもの居場所づくりや社交性のかん養、当事者意識の育みなど、「小さな社会」をつくっていくことが目的です。形態は様々ですが、「子ども食堂」は現在、全国に320カ所、この3年ほどに10倍以上に増えました。

ただ、「子ども食堂」が増えることは子どもを取り巻く環境が厳しさを増しているということでもあり、決して好ましいことではありません。

2012年の段階で、日本の子どもの貧困率は16・3%、実に6人に1人に登ります。先進国の平均は12%。日本は豊かだった1980年代から同じ程度の貧困率でした。つまり、貧困は景気の問題だけではないということになります。

 

再分配が機能しない日本

問題は、日本では当初所得を再分配すると(簡単にいえば税引き後)、逆に貧困率が高くなり、格差が広がるという逆転現象があり、再分配が機能していません。子どもに対しての再分配も同じで、格差が広がる現象があります。

なぜこうした歪な税制になっているかといえば、法人税所得税の引き下げが続き、それは消費税でまかなっていることがあげられます。税制の累進性が弱まっているのです。

また、日本型の社会保障は、正規雇用の男性の給与を通じて生活が保障されるというしくみですが、正規雇用の男性がリストラや賃下げで生活が揺らぐとセーフティーネットが提供されません。育児が家庭内だけで完結していたので、女性が働くとなると、出生率低下につながります。

さらなる再分配のためには増税も必要ですが、日本は痛税感が高い国。他の国と比べると官僚や国会議員への信頼度が低く、「税金は無駄遣いされる」という思いが強い。さらに「お上は信用ならない」という「垂直的不信」に加え、他人を信用できないという「水平的不信」も日本では実際には高いのです。

高度の不信社会で増税することは難しくなってしまいます。意識調査では「貧困対策は政府の義務ではない。貧しい人は自己責任」と考える人も多く、再配分を拡充することは難しく、貧困の連鎖は止まりません。

 

子どもの意識が日本を変える

政治や政府を盲目的に信頼する必要はありません。ただ、為政者に対する不信が高いのであれば、選挙以外でも政治に参加して、政治をただしていく必要があります。日本は他の先進国と比較して、政治参加の水準は低いまま。政治不信が高く、かつ政治参加も低調なのであれば、それは「共同体のことはその構成員のみなが納得して決める」という民主主義の原則が侵されていることになりかねません。

社会に対して信頼がないということは、社会のことを自分たちの手でより良い場にしていくという手段を自ら放棄しているようなものです。「子ども食堂」のような実践を通じて、子どもたちが小さな社会をつくり、当事者意識を育むこと。大人になって大きな社会をわがこととしてとらえられるように育っていけば、日本の社会は変えられると信じています。

 

 (了)