コリン・ヘイ著「政治はなぜ嫌われるのか」刊行です。

昨年末から取り組んできたコリン・ヘイ『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』(岩波書店刊)が11月21日に発売予定となりました。

本と出会ったのは、招聘先のパリ政治学院の書籍購入部で、おそらく誰かが教科書指定したのでしょう、平積みになっていました。最初はジャケ買いしたのですが、読めば読むほどに面白く、その筆運びもさることながら、政治学にも重要なメッセージが含まれていると考え、多少時間にも余裕があったところなので、翻訳を開始したというのが経緯でした。

出版社の紹介ウェッブサイトにも転載される予定ですが、以下に「訳者からのメッセージ」と、本の目次・図表を記しておきます。政治学・経済学の主要な理論の問題点も鋭く突いていて、勉強になる本です。

【訳者からのメッセージ】
著者のコリン・ヘイ教授は、ボブ・ジェソップのもとで学んだイギリス政治学会の俊英であり、現代政治分析を英米圏でリードしてきた第一人者でもある。本邦初となる彼の訳書は、政治不信投票率低下という先進国共通の問題を正面から捉えて、選挙の市場化やグローバル化がこれとどう関係しているかを、「政治とは何か」という問題意識から、平易に読み解こうとするものである。もうひとつは、公共選択論や社会関係資本論、政治的ビジネス・サイクル論といった現代政治・政治経済学の主な理論を批判的に解釈しつつ、社会科学が現実政治とは切っても切り離せない関係にあることを丁寧の論証していることにある。様々な通説を鮮やかにひっくり返しながら、政治不信の根底にあるものを炙り出していく叙述は、良質なイギリスの推理小説を読むがごとくスリリングである。
政治とは共同体の運命を決める力のことであるとするならば、政治不信は私たち自身のその力をむしろ減じてしまうことになる――この事実を、著者のヴィヴィッドかつ公正な筆運びでもって突きつけられる時、私たちの政治観は一変し、民主政治への意思が再び湧き上がって来るに違いない。

【目次】

日本語版への序文 「擁護しがたいものを擁護する」
第一章 政治に対する幻滅
 政治と公共善
 政治分析の課題としての政治不信
 政治への幻滅はどこから来たか
 政治不信マッピングする
  人口的な要因/社会経済および教育による要因
 公式的な政治参加から非公式的な政治参加へ?
 政治はなぜ白けの対象になるのか――有権者に責任はない
 社会関係資本論の問題提起――サプライ・サイドかディマンド・サイドか
 「批判的市民」の問題提起 
 投票年齢引き下げの結果
 政治を取り戻す――サプライ・サイドによる選択肢に向けて

第二章 政治、政治参加、政治化
 固有の政治コンセプト、包括的な政治コンセプト
 選びとる行為としての政治
 作為としての政治
 討議としての政治
 社会的な相互作用としての政治
 政治的な参加、政治的な非参加
 政治化と脱政治化
 政治化はどのように生じるか
 脱政治化はどのように生じるか

第三章 脱政治化の国内的源泉
 脱政治化の公的政治
 公共選択論
 新自由主義と公共選択論の親和関係
 政治化を伴う新自由主義、脱政治化を伴う新自由主義
 アローの不可能性定理
 政治による過重負担
 官僚制による過重負担
 政治的ビジネス・サイクル論――脱政治化の要請
 ダウンズと選挙競合の市場化
 結語

第四章 脱政治化のグローバルな源泉
 グローバル化と民主的な政治的討議は対立するのか
 「ハイパー・グローバル化
 グローバル化とは何を意味しているのか
 独立変数としてのグローバル化
 経済統合の水準を検証する
 資本市場統合の度合い
 従属変数としての国家の収縮
 国家のサイズと活動範囲
 貿易量と国家支出の相関関係
 海外直接投資と国家支出
 金融市場をなだめる
 グローバル化肯定説のレトリックと現実

第五章 私たちはなぜ政治を嫌うのか
 「私たちが望む政治」か「彼らが望む政治参加」か
 誰が非難されるべきなのか
 サプライ・サイドとディマンド・サイドの区分は正しいか
 政治と人間性と
【図表】
公式的政治参加のトレンド――投票率
投票率のトレンド(OECD諸国平均および他国)
公式的な政治参加のトレンド――党員数
OECD諸国における投票率と党員数の推移
政治参加と非参加のアリーナ
民主主義と正当性、政治的アクターへの信頼
アメリカの政治家と政府に対する信頼度(1958〜2004年)
「政治家は顧みているか?」という問いへの比較意識調査
民主主義に対する満足度
民主主義に対する評価の変化
アメリカとEUにおける公的機関への信頼(2004年)
イギリスにおける職業に対する信頼度(1983-2005年)
国会議員が最も要視している利益
アメリカ政府が優先している利益について
アメリカ政府は税金を無駄使いしていると思うか
投票率の低下についてのディマンド・サイドとサプライ・サイド要因
政治を広く定義するか、狭く定義するか――状況による政治、行為による政治
政治参加の諸形態
政治的・非政治的な参加・非参加
政治領域の配置図
政治化と脱政治化
新自由主義の合理性
中央銀行の独立性の論拠
世界の輸出量と生産量(1948〜2003年)
名目GDPに占める貿易額
対内・対外直接投資(FDI)における3対のシェア(ストック、1980年〜2003年)
世界貿易に占める域内貿易のシェア
GDPに占める国家支出(%、OECD国)
経済開放度と国家歳入(OECD諸国平均、2000〜2003年)
対内直接投資と国家歳入(OECD諸国平均、2000年〜2003年)


政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方
(2012/11/22)
コリン・ヘイ

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