新刊出ました。

ポピュリズムを考える――民主主義への再入門』(NHKブックス)が先週末に書店に並んだようです。

この本の狙いや執筆した動機については、いわばA面的に「シノドス・ジャーナル」で説明をしたので、ここではB面として(ええ、カセットテープの話ですよ!)、楽屋裏的な話をしてみたいと思います。


ポピュリズムを考える―民主主義への再入門 (NHKブックス No.1176)ポピュリズムを考える―民主主義への再入門 (NHKブックス No.1176)
(2011/03/26)
吉田 徹

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「あとがき」にも書きましたが、「ポピュリズム」という言葉を最初に不思議に思ったのは大学1年生の頃で、確か有斐閣から当時出ていた公務員試験用の政治学のテクストをぱらぱらとめくっていた時だったように思います(ちょうど文学部から法学部への転部を考えていた時で、その筆記試験用に買ったような気がします)。「ポピュリズム」の項目には「ポピュラリズム」という言葉も載っており(今考えるとちゃんちゃら可笑しいテクストです)、世の中の教科書にも中々解説しがたい概念があるのだな、と感慨深く思ったことを覚えています。

言い換えると、日本語で「ポピュリズム」という概念をきちんと学術的な説明してくれるような本を求めていた、ということになります。日常的に新聞や雑誌でポピュリズムという言葉が流通する割には、これが何であって、何を意味しているのかさほど定かではなく、隔靴掻痒の感があったわけです。

最近でこそ、大嶽秀夫先生の「小泉純一郎」や「日本型ポピュリズム」、さらに学術研究として島田幸典編「ポピュリズム・民主主義・政治指導」、河原祐馬編「移民と政治 ナショナル・ポピュリズムの国際比較」と相次いで出版されましたが、これも比較的最近のことです。記憶では弘文堂の「政治学辞典」にもポピュリズムの独立の項目はなかったように思います。何れにせよ、学術論文を含め、ポピュリズムを真正面から扱ったものは驚くほど少ない、というのが実際にわかったことでした。

実は、この本はもともとサルコジ大統領について、とある新書レーベルから出版されることが決まっていました。フランスの大統領については、その大統領の任期中に邦語で1、2冊出るというのが慣例になっていました。その「伝統」を継続したいという思いがあり、サルコジ大統領についても色々と文献を集めていた所でした。ところが、その矢先に朝日新聞のパリ支局長だった国末憲人さんが「サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領」(新潮選書)を出されました。ご本人とパリで会った際に「サルコジについての本を出すんですよ」と言われた時には、内心「やられた」と思ったものです。その後、担当編集者と色々ブレストをする中で、テーマそのものをポピュリズムに絞る(というか、広げるといった方がいいかもしれません)ことになったわけです。

実際、国末さんの本は、新聞記者ならではのエピソードがふんだんに盛り込まれている上に、政治学的にみても鋭い視点が練りこんであるので、これよりもサルコジについて良い本を、少なくとも新書の内容として書くのは中々難しいだろう、という判断もありました。

ところが、上に書いたような動機、さらにポピュリズムという概念そのものが多層的なものでしたからでしたから、内容が中々小難しいものになり、草稿を編集者にみせたところ、「これをうちで出すのはちょっと難しい」ということになりました。そんなことがあっていいのか?!という思いもあったのですが、最初の読者は編集者。個人的にも編集者が気に入らない本は余り出す意味もないだろう、というポリシーもありました。結局、縁のあったNHK出版から刊行してもらいましたが、結果的には内容についてさほどの妥協はしなかったので、良かったと思っています。担当の井本さんには、本の内容と意図を過不足なく理解してもらうことができましたし、また何よりも、内容に添ったとても良い装丁写真を載せることができました。

日本の政治はもちろん、良くも悪くも、先進国の政治は色々な共通の課題と問題を抱えています。その処理や対応のあり方はもちろん必ずしも一緒ではないのですが、少なくともポピュリズムは濃度の差はあっても、共通の現象といえます。民主主義には国境は存在しません。だからこそ、ポピュリズムを語る意味があるのだと、確信しています。



サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領 (新潮選書)サルコジ―マーケティングで政治を変えた大統領 (新潮選書)
(2009/05)
国末 憲人

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日本型ポピュリズム―政治への期待と幻滅 (中公新書)日本型ポピュリズム―政治への期待と幻滅 (中公新書)
(2003/08)
大嶽 秀夫

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小泉純一郎 ポピュリズムの研究―その戦略と手法小泉純一郎 ポピュリズムの研究―その戦略と手法
(2006/11)
大嶽 秀夫

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ポピュリズム・民主主義・政治指導―制度的変動期の比較政治学 (MINERVA比較政治学叢書)ポピュリズム・民主主義・政治指導―制度的変動期の比較政治学 (MINERVA比較政治学叢書)
(2009/10)
島田 幸典、木村 幹 他

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移民と政治―ナショナル・ポピュリズムの国際比較移民と政治―ナショナル・ポピュリズムの国際比較
(2011/01)
河原 祐馬、 他

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