ビスマルクのみた夢。

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アルチュール・ランボーが16歳の時、1870年の詩が発見されたと報道されたのは、今月の22日のこと。果て、その真実のほどは定かではないものの、専門家がいうのだから間違いがないのだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080524-00000904-san-int


簡単にだけど、以下に訳してみようと思う。だって、ビスマルクがパリを攻略する夢をみるという、なんて刺激的な内容。ランボーの詩はリズムと断定に特徴があるので、素人には難しいけれども。

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ジャン・ボードリ、「ビスマルクの夢―ファンタジー」

夕方、テントの下、沈黙と夢に満たされたビスマルクはフランスの地図に指を置き、瞑想する。
彼の巨大なパイプから紫煙が立ち上る。

ビスマルクは瞑想する。その折れ曲がった小さな人差し指がベラム紙の上を、ラインからモーゼルへ、モーゼルからセーヌへと川々をすべっていく。爪先でストラスブルグの周りにかすかに印をつけ、次に動かす。

ザールブリュッケンで、ウィッセンブルグで、ヴェルトで、小さな折れ曲がった指が震える。ナンシーを撫ぜ、ビッチュとファルスブルグに痕を残し、メッスに線を引き、国境沿いの小さな印のあとをなぞり、そして止まった。

勝ち誇ったビスマルクは、アルザスとロレーヌを指先で覆い隠した!ああ、黄ばんだ頭はなんとたわけて欲張りなんだろうか!
そしてその幸いなるパイプからなんともそそる煙の束が吐き出されている。

ビスマルクは瞑想する。おっと、忙しげな人差し指が大きな黒点の上で止まった。パリだ。
行儀の悪い爪、傷つけ、怒りに任せて地図のあちこちに痕を残した爪は、ついに止まった。
指はそこで、半分折られたまま、止まっている。

パリだ!パリだ!そして目が醒めたままに夢を見すぎた男は、ゆっくり睡魔に襲われる。
おでこは地図の上に倒れ、無意識に口元から落ちたパイプの火が、くだんの黒点を覆う。

はは!可哀想なやつ!(Hi! povero!)気の毒な頭から離れたその鼻が、あのオットー・ド・ビスマルクの鼻が、熱い灰の中につっこんだ。はは!可哀想なやつ!行け可哀想なやつ!(va povero!)燃えるようなパイプの灰の中に・・・

はは!可哀想なやつ、人差し指はパリに置かれていたのに・・・栄華な夢はもう終わり!

外交の古き第一人者の鼻は、あれほどに繊細で、神秘的で、幸せだったのに!隠せ、この鼻を隠さなければならない!

さあさあ!宮廷のザワークラウトの分け前に与るために、罪を背負って[判読不能]宮殿に入る時、[判読不能]歴史に名を刻む時、愚かな2つの眼の間には永遠に炭化した鼻をぶらさげていなければならない!

その通り!夢想などしてはいけなかったのだ。

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1870年は、ナポレオン3世がセダンでプロイセン軍に捕虜になり、メッスで仏軍が敗れた年です。
パリ・コミューンが形成される目前です。解説によれば、同年にこのランボーのテクストが掲載された左派の「アルデンヌの進歩」が創刊されたとのことですが、翌年には早くも発行禁止の処分にあったそうです。

それにしてまるで、ビスマルクの肩越しから覗き込んで冷静に観察して、途端に情景が変わってこっくりこっくりした瞬間を子供のように茶化している情景が目に浮かぶようです。実際には、夢想したビスマルクはパリ陥落を成し遂げましたが、ファンタジー=想像力では敗北したようです。


原文はこちらから。
http://bibliobs.nouvelobs.com/2008/05/22/le-reve-de-bismarck-fantaisie