20min.

余り人に自慢できそうもない至上の喜びが幾つかあるが、
中でも唯一まともなのがある。
 木漏れ陽の中、大学のキャンパスで小脇に本を抱えて
 てくてく歩くこと。

この瞬間が訪れるタイミングが、実は難しい。

本は多くても4冊以内、少なくとも2冊以上でないといけない。そうでないと小脇には抱えきれない。
本は図書館・室で借り出したものでないといけない。そうでないと、埃っぽい迷路のような図書館・室からようやく探している本を見つけ出した開放感と達成感を味わうことができない。
太陽は出ていないといけないが、照り付けていてはいけない。適度にそよ風も吹いていないといけない。寒いと手がかじかみ、暑いと本が汗で傷む。

そんな季節がようやくやってきた。エルムの林で至上の喜びを味わうのだ。
ところが。研究棟と図書館が廊下1つで直結しているのだ。分館なるものはあるが、そこに行くには20分もかかるし、そこにある本には用がない。
こうしてボクの喜びはいとも簡単に奪われた。

めげたボクは、パリ時代の食い倒れ同伴者が「人生観変わるカリィスープ」が出されるというお店に、やはり20分かけて足を伸ばすことにした。
ん?これならKさんから貰うインド直輸入のスパイスで煮込んだボクの野菜カレーの方が旨いぞ。
それも待つこと20分、出てきたお皿には、見事に色艶輝くピーマンが横たわっていた。
ピーマンを残すことの恥と、ピーマンを食べることの屈辱を天秤にかけ、また20分をかけて、図書館とつながってしまっている研究室に戻った。そして20分をかけてこの文章を書いている。

実は幸せかもしれない。